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会長就任のご挨拶
全国ICT教育首長協議会  会長  内 山 慶 治  

会長挨拶  このたび、令和7年9月19日付をもちまして、全国ICT教育首長協議会の会長を拝命いたしました、熊本県山江村長の内山慶治でございます。
 身に余る光栄であると同時に、横尾前会長をはじめ、これまで本協議会を支えてこられた多くの首長の皆さま方の努力と情熱の重みを改めて感じ、身の引き締まる思いでおります。
 どうぞ今後とも、温かいご指導とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

 今、私たちを取り巻く社会環境は、AI、IoT、ビッグデータといった革新的技術の進展により、かつてないスピードで変化しています。このDX(デジタルトランスフォーメーション)の波は、行政サービスのあり方や地域社会の構造そのものを変革する契機をもたらしています。
 しかしながら、その恩恵を全国津々浦々の住民に均等に行き渡らせるためには、自治体間に存在するデジタル格差という大きな課題を乗り越えなければなりません。人口規模や財政力によってICTを活用した住民サービスや教育の質に差があってはならない。私はその信念のもと、地方の小規模自治体が持つ可能性を、ICT教育を通じて示していきたいと考えております。
 本協議会は、まさにこの課題を克服するための「知恵と経験の共有プラットフォーム」であり、全国の自治体が共に学び合い、支え合う場としての役割をさらに強化してまいります。

 私の住む熊本県山江村は、人口約3,200人の小さな村です。主要産業は農林業で、特に「山江栗」は全国的にも知られる特産品です。令和5年には農林水産省の地理的表示(GI)に登録され、村の誇りとしてブランド化を進めています。毎年秋に開催される「山江栗まつり」には、今年1万人を超える来場者が訪れ、村全体が活気に満ちました。
 こうした地域資源を守り育てる一方で、山江村は「教育の情報化」にいち早く着手してきました。平成23年、全国に先駆けて「山江村ICT教育10年構想」を策定し、電子黒板3台から実証研究をスタート。村を挙げてICT教育の充実を図ってまいりました。
 平成27年度には1人1台端末を整備し、令和元年度にはiPadを中学校に導入。令和のGIGAスクール構想が始まる以前から、ICT教育を村の重点政策として推進してきたのです。15年に及ぶ継続的な取組の成果として、全国学力・学習状況調査では高い正答率を維持し、子どもたちの学びに確かな変化が現れています。

 ICT教育の導入によってもっとも大きく変わったのは、実は「地域の空気」でした。
 導入当初、保護者や地域の方々にアンケートを実施したところ、「電子黒板を使う授業を初めて見た」、「タブレットを操作する子どもたちの姿に感動した」という声が数多く寄せられました。ICTが“特別なもの”から“日常の学びの道具”へと変わっていく過程で、地域の人々の教育への関心が高まり、PTA活動や授業参観の参加率も大きく上昇しました。
 また、地域住民による登下校時の見守り活動も活発化し、「子どもを地域で育てる」という気運が着実に広がっています。ICT教育は、単に学力向上のためだけでなく、地域の絆を再生する契機となっているのです。

 教育DXは、教師の働き方も大きく変えました。山江村では、校務支援システムを早期に導入し、令和6年度の教員の月平均時間外勤務は、平成30年度に比べて10時間以上削減、年間では150時間の削減を実現しました。
 その分、教員が子どもたちと向き合う時間が増え、信頼関係の構築や授業改善が進みました。中学校では地域クラブとの連携により部活動の地域移行も進め、持続可能な教育環境の整備が進んでいます。
 今後はAIを活用した英語教育や個別最適な学びの実現に向けて、デジタル教科書や学習データの活用をさらに進めていく方針です。子どもたちが世界に羽ばたくグローバルな感覚と、ふるさとを愛するローカルな感覚を併せ持った人材に育つことを願っています。

 ICT教育の一層の充実に向けては、いくつかの課題もあります。
 第一に、機器更新にかかる財政負担の平準化。第二に、教員の指導力向上と情報活用能力の強化。そして第三に、AI・デジタル教材を活かした深い学びの実現です。
 Society5.0時代に求められるのは、知識の詰め込みではなく、自ら考え、議論し、創造する力です。自分の意見をしっかり主張し、多様な他者と協働できる子どもたちを育てることこそが、教育DXの本質だと考えています。
 また、国が進める学習者用デジタル教科書の本格導入にあたっては、現場の声を反映しつつ、学びの質を高める方向で運用できるよう、全国の首長と連携し提言を重ねてまいります。

 未来を担う子どもたちの教育、地域の高齢者見守り、災害に強いまちづくり―これらすべての課題解決に、ICTと生成AIの力は欠かせません。私たち地方自治体こそが、その力を生活の現場に根づかせる担い手であり、本協議会の使命もまたそこにあります。
 これからも、全国の仲間である首長の皆様と力を合わせ、地方から日本全体のデジタルトランスフォーメーションを牽引する存在へと、この協議会をさらに発展させてまいります。
 皆様の温かいご理解とご協力を心よりお願い申し上げ、就任のごあいさつとさせていただきます。

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